
「女性が、より自分らしくあれるように」。つくば市・モーハウス
【NEWSつくば連載 日本一の湖のほとりにある街の話vol.33】
つくば市の、大通りから少し入った静かな住宅地の一角、屋上に柔らかな草が茂る印象的な建物が建っています。エントランスに一歩足を踏み入れると、間仕切りなくゆるやかに奥へと続く、中庭に開かれた開放的な空間。天井にはゆったりとドレープを描いて張られた布、中庭にはたくさんの丸ガラスがはめられた大きな青色のドームと、不思議でありながら、じんわりと心地よさがこみあげてきます。
ここは、授乳服の製作·販売を行う「モーハウス」が運営する「モーカフェ」。画期的な授乳服をはじめ、乳児同伴で働く「子連れ出勤」などの先進的な取組みで、女性の生活をより快適にし続けてきた同社について、代表の光畑さんにお話を伺いました。
モーハウスの授乳服は、巧みにスリットを入れた構造により、赤ちゃんが母乳を欲しがった1秒後には授乳できる優れもの。しかも、はた目には赤ちゃんを抱っこしているようにしか見えません。この素晴らしい衣服を生み出した光畑さんですが、そのキャリアのスタートはアパレルからではありませんでした。
大学卒業後、大企業での美術展企画等に携わる中、転機となったのが、生まれて間もない我が子と電車に乗っていた際、お腹が空いた赤ちゃんが泣き出してしまった事。やむを得ず電車の中で周りの視線を浴びながら授乳せざるを得なかった体験から、「着られる授乳室」があればと思いたち、どこでもすぐに授乳できる服を作り始めたのだそうです。
光畑さんご自身が使ってみて、あまりの使いやすさと快適さに驚いたという商品は、しかし、当初の売れ行きは芳しくなかったそうです。ですが「赤ちゃんが欲しがったらすぐに授乳できる」「肌が露出せず、周りを気にせず授乳できる」といった独自のポイントを示すための「授乳ショー」の開催などにより、当時は存在しなかった「外出時に着られる授乳服」の認知も高まり、売れ行きも向上。
デリケートな妊産婦さんの肌に心地よいようつくられた製品は、高齢者や乳がんを患った方にも広く受け入れられるようになっていきます。また、乳児同伴で、抱っこしながらの勤務スタイル「子連れ出勤」が様々なメディアで紹介され、製品と共に、女性の新しいワークスタイルを示すフロントランナーとして脚光を浴びてきました。
そうして時は経ち2025年の現在。モーハウスが創業した1997年から約30年間で、日本の育児環境は、少しずつではあれども変化してきました。そうした変化についてお考えを伺うと「教育や医療の無償化等、制度的な部分の改善は進みました。ただ、それで子育てが楽しくなっているか、疑問に思う部分もあります」と光畑さん。
「今は、子育てがスマホのアプリで行われ、授乳時間まで『管理』されるものになってしまいました。ですが、子どもの不確実性は『管理』という考え方には馴染まないものです。数字·データをつければつけるほど、お母さんたちは『母親はこうあらねば』と苦しくなってしまいます」
光畑さんの「女性を快適に」という想いの先は、女性だけでなく男性にも向けられます。「女性がより快適に生活するために、女性自身の中の『こうしなければならない』という思いをなくしていきたい。そして、そこで重要な役割を担うのが男性です」
「日本のお母さんは、真面目でガマンしてしまいがち。自分が快適になれる授乳服を見ても『もったいないからいらない』となってしまいます。そこで、『楽になるなら、ぜひ買えば良い』と背中を押せるのは、むしろ男性なのです」
そうして妻が楽になり機嫌が良くなれば、夫も嬉しく楽しい。「女性が、より自分らしくいられるように」。一貫した想いで貫かれている光畑さんの取組みは、女性だけでなく男性もつつみこみ、皆が笑顔でいられる道を指し示しています。
本記事は、NEWSつくばにて連載のコラム「日本一の湖のほとりにある街の話」第33回記事です。
元記事はこちら→《モーカフェを運営する光畑さん《日本一の湖のほとりにある街の話》33》
追記 取材を終えて:
現代において、男女での性差に起因する事象は、育児に限らずとかく対立項として語られがち。光畑さんが活動を通して示されているように、女性も男性も、ともに笑顔になって行ければ…と思った取材でした。
モーカフェ:
所在地:茨城県つくば市山中480-38
HP→【モーカフェ】
HP→【モーハウス】
つくば市:
万葉の昔より信仰の対象とされてきた名峰・筑波山の南麓に位置し,数多くの研究機関が集積する科学の街・つくば市。研究所をまわる夏休みのサイエンスツアーも大人気です。
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